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2022年04月06日
信州鋸情報発信インターンシップ
株式会社ニッポン手仕事図鑑は、長野の伝統工芸である 「信州鋸」を体験、伝統と匠の技を体感し、 職人の魂を肌で感じ、情報発信を目的とした 1泊2日のインターンシップを開催しました。
今回は信州鋸インターンシップの参加者からそれぞれの目線で、参加したからこそ見えてきた信州鋸の魅力を記事にしていただきました。
あなたは「将来無くなるかもしれないものといえば?」と聞かれたら、何を思い浮かべますか?
北極の氷やオリオン座の右肩「ベテルギウス」、まさに様々でしょう。
職業であればどうでしょうか。
電車の車掌、警備員、ホテルマン等々AIが
人間の仕事をとって変わるなんて話も最近よく耳にしますね。
本記事で紹介させていただく伝統工芸「信州鋸」も消えてしまうかもしれないもの、
そして仕事のうちの一つです。
本記事があなたが信州鋸に触れる理由に、
はたまた信州鋸の行く末が変わるきっかけに繋がればと思います。
理由は職人不足。
産地は長野県茅野市。二百年続く長野県指定の伝統工芸であり、かつては多くの職人を抱える一大産業だった信州鋸。
しかし時代は流れ市場での替え刃鋸の需要が高まっていった結果、現在この伝統を受け継ぐ職人は二人。最年少は78歳。
近い将来いつ無くなってしまってもおかしくないといえる状況にある産業です。
車掌やホテルマンはたとえAIが取って代わったとしても
人間がまた仕事を取り返し復活することも可能でしょう。
しかしながら伝統工芸に関しては一度途絶えたら二度と同じものは作れないといっても
過言ではありません。
このまま手を打たないでいると無くなってしまうでしょう。
信州鋸
そもそも信州鋸とは?と思っている方も多くいらっしゃるかもしれません。
本記事を書いている私もつい最近までそのうちの一人でした。
私は今回、ニッポン手仕事図鑑主催の『信州鋸情報発信インターンシップ』に参加し、信州鋸の職人両角金福さんの工場にインタビューをさせていただきました。
インタビューした内容を基に信州鋸とは何なのか、普通の鋸とは何が違うのかはじめに紹介させていただきたいと思います。
歴史
信州鋸の歴史は古く、今から二百年程前、江戸時代文化年間、江戸で鋸鍛冶として知られた藤井甚九郎が、諏訪に移住しノコギリの製造を始めたのが起源とされています。
諏訪には森林があり、高島藩が木を切るための鋸を必要としていたからです。
その後明治時代以来、長野県茅野市は信州鋸の製造の本場として発展し、全国に知られるようになりました。
そして、信州鋸は昭和五十七年には、長野県伝統工芸品に指定されました。
今回インタビューさせていただいた両角鋸工場も長野県芽野市に位置しています。
製作工程
本来であれば完成までのすべての過程を紹介したいところですが、今回は実際に見学させていただいた、焼き入れ後の「磨き」、「歪みとり」、「仕上げ目立て」という工程を、主に紹介したいと思います。
『磨き』
素材をノコギリの形にし熱処理を加えた後に行う、砥石を使い適切な厚さに削る作業です。
写真を見てわかる通り、機械を使った作業になります。
伝統工芸=手作業といったイメージを持たれていた方は少し意外かもしれません。
信州鋸は、人の手でないと行えない繊細な作業は手作業で製作しつつも、
機械で補えるものは機械に置き換えることで日々進化を繰り返してきました。
伝統を残しつつも便利なものを柔軟に取り入れていく姿勢はとても興味深いものがありますね。
この柔軟な姿勢は200年の歴史を受け継ぐ上での一つの秘訣といえそうです。
とはいえこの作業は音と火花の色なども頼りにしつつ厚さを決めるため、
機械と人の技のハイブリットといっても過言ではないでしょう。
『歪みとり』
次に板のわずかな歪みをハンマーで叩きながら修正する作業を行います。
光の反射を頼りにわずかな歪みを取り除いていきます。
この作業をマスターするのに4〜5年はかかるそうです。まさに職人技ですね。
興味深いのは作業をする部屋の低い位置に、曇りガラスの窓が設置されている点です。
横から光が入ると板の歪みを発見し易い為、そして品質にばらつきが出ないようにする為に、
どの時間帯でも一定の光が入ってくる曇りガラスが使われています。
この部屋自体がノコギリを作るための部屋となっているのです。
『仕上げ目立て』
歪み取りの後にもう一度やすりで削り、刃を付けるカッティング、
刃の向きを整えるあさり出しを行い、そして仕上げ目立ての作業を行います。
菱形のヤスリを使い鋸の歯1つ1つにヤスリをかけることでより切れ味を上げる工程です。
角度、力加減が少しでも違うと切れ味が大きく変わってしまいます。
この作業は実際に体験させていただいたのですがとても難しく、
職人の両角さんの様に綺麗に削ることができませんでした。身をもって実感しました。
この様な過程を経て信州鋸は完成します。
今回は文字数の関係で解説を割愛させていただいた作業も多くあるのですが、
実は両角鋸工場では工場見学もされています。
もっと詳しく知りたい方や、興味を持たれた方はぜひとも体験してみてはいかがでしょうか。
課題
製作工程からも分かるように信州鋸の魅力は沢山あり、
この伝統工芸がなくなってしまうのは勿体ないと感じた方も多いのではないでしょうか。
しかしながらこの伝統を残していくには解決しなければならない問題も多く抱えているのが現状です。
一つは素材不足。両角さんが作る信州鋸の鉄板は信頼できる技術を持つ工場から仕入れていました。
しかしその工場が廃業してしまったため、
今現在買い入れておいた在庫を使って鋸を制作しているのが現状です。
つまり素材に限りがあるのです。
二つ目は商売として成り立たせることが難しい点にあります。
先ほど紹介したように歪み取りの技術だけでも手に身に着けるのに4年はかかります。
商品として納得のいく形になるまで何年もかかるとなると、
商売を成立させるためにはもっと時間がかかってしまうでしょう。
今できること
じゃあどうしたらいいの?と思われるかもしれません。
私は個人的に、まずは信州鋸のことを多くの方に知ってもらうことが大切だと考えます。
この記事で初めて信州鋸の存在を知った、又は名前は聞いたことはあるけど詳しくは知らなかったという方もいらっしゃったと思います。
私もインターンシップの募集広告でつい最近初めて信州鋸の存在を知りました。
無くなってしまうかもしれないけどその存在すらしないという人が他にも沢山いるはずです。
だからこそまずは信州鋸を知ってもらうこと、問題に目を向けてもらうことが大切ではないかと思っています。
今回のインターンシップでは私を含む計五人の学生が信州鋸について学びました。
そしてその五人はSNSなどを用いて様々な人に信州鋸に関する情報を発信していきました。
知り合いに、インターネット越しの誰かに、そしてあなたに。
ネズミ算とまではいかないかもしれませんが、きっと効果があるはずです。
まずは小さなことから始めてもらうだけでもかまいません。
家族や友人、伝統工芸に興味がある人にこの記事の話をしてみたり、SNSで発信してみるのも効果があるはずです。
私がこのインターンシップで信州鋸に触れたように、
そしてあなたがこの記事で信州鋸を知ったように、
あなたが次の誰かに信州鋸について触れるきっかけを作ってみるというのはいかがでしょうか。
もし信州鋸の行く末が気になったのであれば。
京都芸術大学3年生 Yさん