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2016年05月18日
メヒカリのつくだ煮復活物語
「御畳瀬(みませ)見せましょ 浦戸をあけて
月の名所は 桂浜 よさこい よさこい」
よさこい鳴子踊りの歌詞です。
こんにちは、高知で新聞記者をしているシイラです。
御畳瀬は高知市の中でも幹線道路沿いにあるわけではなく、
特に用事でもなければ行く地区ではありません。
が、昨年末から春にかけて何度も通うようになりました。
かつて地元で食べられていたメヒカリのつくだ煮復活に
取り組む干物屋さんを取材していたのです。
メヒカリは正式にはアオメエソといいます。
勘の良い方の想像通り、目が光るから「メヒカリ」。
目が大きいですね。メヒカリ自体は今も獲れますが加工品の主力は干物。
御畳瀬では網の上に魚を並べて干す風景が今も見られ、風情があります。
同じ形の物が整然と並ぶ様はちょっとした芸術作品です。
御畳瀬の干物屋「干魚(ひもの)のやまさき」さんはなぜ新たな商品、
メヒカリのつくだ煮に取り組もうとしたのでしょうか。
背景には御畳瀬の高齢化がありました。
高知市のホームページによると
人口361人中65歳以上の占める割合は60.1%と市内の地区では最も高いのです。
冒頭のよさこい鳴子踊りの歌詞に出てきた浦戸地区が2番目に高い47%。
いかに御畳瀬が飛びぬけているかが分かります。
「新たな名物を作ることでちょっとでも地区を活気付けたい」。
その思いがつくだ煮復活へとつながったのです。
材料のメヒカリは小ぶりのもの。
大きめの物は干物に使われるのですが、小さいものは流通経路に乗りません。
かつては漁師の家庭でそれこそつくだ煮などにして食べられていたのですが、
いまは出回らないためつくだ煮自体が作られなくなっていました。
山崎さんは5年ほど前に干物づくりの手ほどきをしてもらった人に
食べさせてもらったことがあり、その素朴な味が心に残っていたのでした。
自分の店を構え干物作りが軌道に乗った時に見えてきた御畳瀬の元気のなさ。
その時浮かんできたのがつくだ煮復活のアイデアでした。
しょうゆ、砂糖、酒というシンプルな味付け。
頭と腹を取り除いたメヒカリを入れ煮込みます。
シュワシュワと泡立った調味料がメヒカリを優しく包んでいきます。
味がほどよくしみ込んだら仕上げにほんの少しの水あめで甘みを加えます。
さらりと紹介してしまいましたが
理想の食感や味を追究するのに1年ほどかけたそうです。
1パック税込み300円のおかずには山崎さんのこだわりと
地区を思う心がしみ込んでいるのです。
干物作りは御畳瀬の冬の風物詩。
しかし山崎さんは若手の雇用も考え昨年から通年営業に取り組んでいます。
「おはようございます」といつも気持ちよくあいさつしてくれる若い従業員さんたち。
その人たちにも暮らしがあります。
こういうことを書くと重々しくなってしまうかもしれませんが、
裏を返せば300円でおかずが手に入り、若者の雇用も含めた地域活性化に貢献できる、
と考えたらちょっと素敵な使い道だと思いませんか。
少し前のことになりますが、東京にある熊本のアンテナショップにたくさんお客さんが入ったニュースがありました。
被災地を思いつつも、みんながボランティアに行けるわけではありません。
それぞれが今できる応援をしたいものですね。
高知で記者をしている私、シイラも買うこと、書くことで地域を応援していきます。
名前:シイラ
職種:新聞記者
出身:神奈川県3人と黒柴1匹で、高知県で暮らしています。
長距離走と野球観戦が好きです。
白壁の建物、懐かしいユニフォームの野球カードを眺めるのが至福のひととき。