みんなの「”あの人”に知ってほしい!」をつなぐオンラインマガジン
2019年04月11日
ライフスタイルの多様な可能性。東伊豆を笑顔にする人 | 菊地順平
天城山を視界の端に、相模湾を大きく回って静岡へ。
道路標識に「熱海」の二文字が現れても、そのまま真っ直ぐ。
伊豆半島を南下し、曲がりくねった山道を抜けると木々に覆われていた視界が突然開かれました。
目の前には、陸から突き出てきたような岬と港町。
自然の緑と、細事と並び陽の光を集めて照り返す家々。
入り江には子供が散らかしたおもちゃのような防波堤。
山と海と雲と、飛び出したこの岬が神秘的に感じられます。
いつか旅行誌で見たアドリア海の真珠、ドブロブニクに似ていると言ったらほかのメンバーに少し笑われてしまいした。
東伊豆町稲取。
それがこの土地の名前です。
稲取の笑顔が集まる場所、ダイロクキッチン
稲取のある一角で、地元の高校生たちがなにやらオシャレなカフェで活動していました。
地元の人たちの憩いの場であるシェアキッチン「ダイロクキッチン」。
それがこの場所の名前です。
この日はフレッシュな高校生たちによるカフェが開かれていましたが、ほかにも地元の有志によるカフェや料理教室など様々な地域の交流イベントなどが開かれるそうです。
地元の人たちや若い人たちの笑顔が集まるダイロクキッチン。
町の活性化の中心であるここを改修、運営した人たちがいます。
大学の学生団体空き家改修プロジェクトから始まり、現在はNPO法人ローカルデザインネットワークで活躍する人たちです。
私は今回、東伊豆町で活躍するローカルデザインネットワークの菊地純平さんにインタビューをさせていただきました。
この一枚からもわかる通りに菊地さんは東伊豆町を回る時や、インタビューをしている間ずっと笑顔で接してくれました。
その雰囲気からこちらも自然と笑顔が誘われます。
実務的な事をやりたい、始まりはそんなフラストレーションから
空き家改修プロジェクトには、当時同じ大学の建築学科の先輩であった荒武さんと守屋さんから誘われたという菊地さん。
しかし、この学生団体に加わったのはただ誘われたからではなく、胸の中にとある理由が存在したからだそう。
「きっかけとしては、大学の建築学科の授業って設計課題があって、それをバーッと製図して模型を作って競い合うのを基本としてやってるんだけど、あんまり実践的なことはなくて……」
大学のカリキュラムにないような実践的なことをやりたい。
そんな思いが段々と積み重なっていったと言います。
「それがすごいフラストレーションになって、実践的な何かをやってみたいなって思ったことかな」
実践的なことがやりたかった、それが根本にある理由。
大学のカリキュラムと自分のやりたかったことの乖離に限界を感じたそうです。
「とはいえ、最初はこんなに大きくなるとは思ってなかったんだけどね」
(常に笑顔が絶えない菊地さん)
“東伊豆での活動を大きく意識しだしたのはいつごろだったんでしょうか?”
「意識しだしたのは割と最近かな」
こうやって改修をしただけじゃ何も変わらない。
空き家改修プロジェクトを進めていく中でそう考え始めたそうです。
ただ建てるだけでなく、その後にどう運営していくのか。
「新しい問題を見つけていくうちに、その解決方法も考えるようになって…。
そうすると町のリソースとかにも気がついていって、そこら辺から意識が変わってきたと思う」
シェアオフィスを作りたいとか、空き家って稲取にどういうところにあるのだろうとか、さまざまなアイデアが浮かぶようになってから、色んなところに目をつけてもいいかなという話になったそうだ。
稲取だからできる、自分の選ぶライフスタイル
菊地さんは、この町で自分のライフスタイルが実験できると言います。
一体、どんなライフスタイルなのでしょうか?
「平日は普通に働いて、休日はこっちに来て何かをやるっていうスタイルって、新しいなーって思うし、自分でもすごい楽しんでる」
街を歩いてうろうろしたり、近所のおばあちゃんに美味いの食え、って言われたりだとか。
そんな東京では味わえない感覚も普通にできるんだと言うことを知って欲しいと言います。
「伊豆の人って、観光地だからなのか港町だからなのか、いろんな地方からいろんな人が来ることに抵抗がないんだよね」
オープンな気持ちがここ稲取にはあると言います。
「前も、静岡の大学生と町を歩いてた時も、干し柿が干してあるとかいってみんなでバシャバシャ写真を撮ってたんだけど、普通に考えたら自分家の前で写真を取られるのは不快だなって思うことが多いと思うのに、おばあちゃんが顔を出して干し柿を分けてくれて、なんかそういうのはオープンだよね」
一緒に町を散策している時に、地元の方からみかんをいただく場面も。
普段の生活の中で知らない人から声をかけられ、食べ物をもらうことなんてほとんどありません。
菊地さんの言う2拠点生活では東京で体験できないことがもう1つの場所で経験できる。
そんな感覚が普通にできるようになる生活を考えると、とても魅力的に映りました。
関係性が深いような人が増えていって欲しいな、と菊地さんは話します。
「確かに東京で働く方が稼げることも多いし、完全に移住をするのも少し難しいという人もいる。
でも東京に固執しなくても色々な場所で仕事はできるし、だからといって完全な移住100%だけじゃない。
こうやって自分達が選択肢を広げていって、色々な人が色々な人と関係を持てるようになって欲しい」
休日にふらっと行って、仕事をしたり地元の人とお酒を飲んだり100%移住しなくても、自分のやりたいような割合での2拠点生活をする事が出来る。
菊地さんはそんなところにも惹かれたそうです。
選択肢を広げて、やりたいことをやる。菊池さんの伝染する笑顔。
この町の最終的なビジョンというか、ゴールみたいなものってありますか?
「やっぱり、もう少しだけ都市の人が来て欲しいかな。
観光だけではなくて、さっき話したみたいなライフスタイルを実践する場とか、ここで仕事をしてみたりする人が増えて欲しいな」
地元の頑張りもあるのですが、やはりまだこの稲取の良さをアピールしきれていないとも言います。
「この町の山から見下ろした半島の景色、、、あれ、太智くん何に似てるって言ってたっけ(笑)」
ドブログニクです…。
「そうそう、それそれ。ここの景色はこんなに良いのに、町の人は当たり前だと思ってて。
町を見てたらわかると思うんだけど、凄い金目鯛を押しててさ。
それももちとん魅力の一つなんだけど、それ以外にもいいところがあるのにまだそこは発信しきれていないなー」
こうやって色々発信し続けて人を増やしていきたい。
菊地さんのビジョンが見えてきました。
新しいライフスタイルを広げたりしながら、稲取を発信したい。
そして色々な選択肢があるという事を伝えたい。
「あとは、この場所を介して、なんでも出来る場所になったら面白い。
ただ人の数を増やすだけじゃなくて、人のつながりの濃さとかそういう点を意識したい」
人の数ではなく、繋がりの濃さ。
菊地さんはそんな関係人口増やしていって「第二の故郷」のような場所にしたいと言います。
「東伊豆が観光だけで他の場所に勝てるかって言われると正直わからない。
でもここに来れば面白いやつに会える。だから行きたい。そういう場所になったら面白いなって思う。」
どんなに忙しくなっても、活動を続けられるのは”楽しいから”。
純粋で真っ直ぐな気持ちと常に笑顔を絶やさない菊地さんは、笑顔を伝染させる不思議な魅力に溢れた方でした。
3月に2年間勤めた仕事を退職し、4月より新しい仕事に転職することになった菊地さん。
作りたい未来に向かってまっすぐ走る菊地さんから勇気をもらえた1日になりました。
————————————
▼各リンク▼
【NPO法人ローカルデザインネットワーク】
【ダイロクキッチン】
【空き家改修プロジェクト】
Photo by 小黒恵太朗