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ふたりごと文庫 みんなの「”あの人”に知ってほしい!」をつなぐオンラインマガジン

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2017年08月30日

蝉と表現

おにぎりの一口目で、
仮り歯が外れた映像担当のたかちひろです。

おにぎり、食パン、うどん。
かれらに仮り歯を外されたのは
1度や2度ではありません。
柔よく剛を制す。おそるべし。

「ミミミミッ!」

炎天下の交差点で音のする方を向くと、
向かいの歩道でひっくり返ってしまった蝉が、
必死に鳴きながら動いています。

信号待ちをしている人達はチラッと見て、
避けるだけで我関せずな様子。
(あぁ、都会的なシーンだな)
と思いました。

みんな忙しくて、
他のことに構っていられないし、虫も苦手。

かくいう私も薬局に行って、
待ち合わせに早く向かいたいし、
嫌いじゃないけど触れはしない。
(どうしようかな…)

「ミミミミッ!」

蝉はまだ必死です。

信号が変わりました。
向かいの交差点まで行き、
蝉を少し通りすぎ…たものの、
やっぱり気になって振り返りました。

すると、金髪にピンクのヘッドホンをした
ポップな女の子が、カメラを構えて
その蝉を撮影してました。

私は困惑しました。

その子は虫が苦手なようで蝉が動くと、
慌てて避けます。

この子は撮影を終えても蝉を放置するな。
残酷なことをする…と思いつつも、
表現は時に残酷なものです。

ひょっとしたら女の子は本気で
表現に挑んでいるかもしれない。
その写真を他の人が観て、
感動する可能性だってあるかもしれない。

複雑な感情のまま、その場をあとにして
近くの薬局に向かいました。
買い物を済ませながらも気になってしまい、
交差点の方に戻りました。

ちょうど女の子が写真を撮り終え、
去っていくところが見えました。
蝉の声は聞こえません。
(死んじゃったか)

交差点に着くと、
ひっくり返って動かない蝉がいました。
カバンをそっと近づけてみると、
蝉がハッと 気づいてカバンに捕まりました。
鳴きもせずこっちを見た蝉の目が、
今も忘れられません。

その後、無事に飛んでいく
蝉を見送って待ち合わせ場所へ向かいました。
別に蝉を助けたからどうだとは思っていなくて、
助けた蝉が直後に死んでいることも多々あり、
結局、命をコントロールするのは
自分ではない何かなのだと思います。

ただ、自分も表現する立場としては
悶々とするものがありました。

私の持論では、撮られる被写体への
リスペクトはとても大事で、
撮った蝉を放置することはありえません。

 

そんなとき、尊敬するカメラマンさんの
エピソードを思いだしました。
そのカメラマンさんはバブルの頃、
コカコーラのCMを撮影してた人で、
今も現役バリバリな方です。

元々は有名な写真家のアシスタントだったそうで、
ご一緒したときに何故動画に転向したんですか?と
聞いたことがありました。
そのエピソードです。

 

香港での夜。
仕事でカジノに向かう途中、
海上で小船にのった子供達が沢山いたそうです。

そこへ豪華客船が通り、
客が上からお札を大量にばら撒くのだそうです。
それを小船に乗った子供達が必死に取る。
そんな光景を目の当たりにして、
若き日のカメラマンさんは愕然としたそうです。

ふと師匠を見ると、食い入るように
その光景を撮影していて、
『あぁ、俺は写真家にはなれない』
と思ったとのことでした。

 

何が正しいなんて、全く必要ないのですが、
自分が悶々と引っかかっていたのは、あの場面で
女の子に怒るべきだったのかもしれない、
ということだと気づきました。

怒れば、きっとただの変人だと思われるでしょう。
女の子が表現者になりたいのか、
趣味なのかも分かりませんが、
命に対する考えが変わるきっかけに
なったかもしれない。

夏も終わりに近づいていますが、
たまにはディープな話しでもということで(笑)
たかちひろでした。

 

ニッポン手仕事図鑑 たかちひろ

名前:たかちひろ
職種:撮影、編集
出身:兵庫県

いつも本名を読みor書き間違えられるひと。
6年住んだ岡山は第二のふるさと。
その所為か、いつも岡山出身と記憶されてしまう。
出身も名前もって…ま、いいんですけどね。

映像制作 独楽
http://eizouseisakukoma.com/

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