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2018年07月04日

お茶で有名な掛川の、もう一つの名産品。700年余り受け継がれてきた葛布に迫る。


 

一枚400円のしおり。
これだけ見たら、高いと思う方が多いはずです。

でもそれは、何百年も前から紡がれてきた”つくり手の想い”が見えないからではないでしょうか。

 

お茶だけじゃない、掛川

 
 

先日、静岡県掛川市に行ってきました。近づくにつれて車窓からお茶畑が見え始め、
お茶好きな私は大興奮。お昼には茶そばをいただきました。

 

このように、掛川=お茶のイメージを持たれている方は多いと思います。
「静岡の茶草場農法」として世界農業遺産に登録され、世界的にも注目されています。

しかし、掛川にはその陰に隠されたもう一つの名産品があります。
葛布くずふ」です。

 

 

葛布は葛の繊維を緯糸よこいとに使用した手織物のことで、鎌倉時代からの歴史があります。葛はどこにでも生えており、葛布に限らずさまざまなものに利用されてきました。
葛湯や葛餅、風邪のときお世話になる葛根湯などが、イメージしやすいかもしれません。

葛布でつくられているのは小銭入れやカバン、さらには壁紙など、多岐にわたります。
普通の布製品よりも光沢があり、ゴツゴツとしておらず温かみのあるしなやかな手触りです。

 

 

葛布には“たま”があるのも特徴です。短い葛の繊維をつなぎあわせて一本の糸にするため、結び目ができます。
これが“たま”で、見た目にも触感にもぼこっとしているのがわかり、手づくりならではよさを感じられます。

 

さまざまな想いと共に織られる葛布

 

葛の採取から織るまで、すべての工程を人間の手と自然の力で行っています。
葛はどこにでも生えているものですが、素人には質のよい葛を見分けることがなかなかできません。

葛採りの達人は良質な葛がありそうなところへと入りこみ、
採った葛を慣れた手つきでリング状にまとめていきます。

 
 

この葛は、煮る→水にさらす→自然発酵させる→繊維となる部分を取り出す→干す→繊維どうしをつなげる…という工程を経て、やっと一本の糸となります。
簡略化して書いてもこれだけの工程があり、葛布を織るまでにも、かなりの時間と手間がかかっていることがわかります。

ちなみに10kgの葛からできる糸は100g、つまり最終的に葛布に使用される糸は、採取した葛の1/100の重量にしかならないそうです。


 
 

実際に葛布を織っているお店のひとつが小崎葛布工芸。お店の暖簾は、もちろん葛布です。
かつて40~50軒あった葛布のお店は現在2軒まで減少しており、小崎葛布工芸はその残っているお店の一つです。


 
 

ここでは葛布の手織りを見学しました。作業していたのは、御年80歳超えの大ベテラン。

あらかじめ張ってある経糸たていとと経糸の間に緯糸よこいととなる葛糸をシュッと通し、板を手前に引いてトントンと織っていきます。
経糸は葛糸ではありません。その理由は主に2点あります。緯糸を通すときに擦れやすいという点、また、どうしても費用がかさんでしまうという点です。

 

糸は葛の繊維の裂き方により、太さが変わります。
そして太さにより、どんな商品に使用するかを決めます。
手作業だからこそ、毎回同じ太さのモノはできません。
仕上がった糸を見て、この糸を最大限に活かせる商品はなんなのか、と考えてから織り始めます。

これもまた、長年の経験がものをいいます。

葛布を織る人は、単に織っているわけではありません。
「昔から紡がれてきた想い」そして「葛を採取し、糸をつくる人から紡がれる想い」
葛布に関わる人の、「葛布を残したい」という想いとともに、シュットントンと葛布を織りあげています。

 

いざ、手織り体験

 

手織りを見学した後、もう一軒の葛布店で実際に体験してみました。
場所は、川出幸吉商店。織り機を前にして、『鶴の恩返し』の鶴になった気分です。
先ほどのリズミカルに織る様子からはまったく難しさを感じませんでしたが、
実際やってみるとシュットントンというリズムでは到底できません。


 

葛糸は少し引っ張っただけでもすぐに切れてしまいます。
切れたらそこで結びなおしますが、いくら手づくりの味とはいえ、“たま”が多すぎるのはよくありません。

トントンも絶妙な力加減でやらないと、生地がゆるすぎたりつまりすぎたりしてしまいます。
5分ほどやっただけでも腰が痛くなってきて、見ただけでは分からない職人のすごさを実感しました。

 

モノの裏側を知ること

 

まずは「知ってもらうこと」が大事だと、小崎葛布工芸の小崎隆志さんは語ります。
今回私が体験した手織りも、「知ってもらう」ための一つの方法です。


 

モノを表面的に見るだけでは、なかなかその価値が理解できません。
モノの背後に隠されたストーリーが、奥深さを増すのです。
そして、ストーリーを知っているからこそ、大切にしようという想いが芽生えてきます。

長年紡がれてきた“つくり手の想い”を知ることで、
値段には表されない価値を感じられるようになるのではないでしょうか。
掛川を訪れる際はぜひ、葛布に関わる人の小さな声にも耳を傾けてみてください。

 

名前:尾形希莉子
職種:学生
出身:神奈川県横浜市

大学で地理学を学ぶ傍ら、「面白そう!」を原動力にあちこち飛び回っている。食べ物には目がなく、農ある暮らしを求めて生産現場を訪れることもしばしば。身近なものの裏側が好き。

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ふたりごと文庫編集長 浅野有希

ふたりごと文庫編集長 浅野 有希
産業能率大学4年生。
大学2年生の時、ニッポン手仕事図鑑のインターン生として参加し、
2周年感謝イベントや期間限定ショップのスタッフとして活動する。
現在は「日本の地方の魅力を伝える仕事」に就くため、日々猛勉強中!

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