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2018年07月09日

静岡県掛川市「葛布」の、目に見えない魅力

憂鬱な梅雨に差し掛かろうという6月、静岡県掛川市へお邪魔してきました。
目的は、掛川市に古くから伝わる伝統工芸「 葛布くずふ」。

「くずふ……?」
初めて聞いた時、その響きから食べ物かと思いましたが、
植物の「くず」の繊維を織りあげた布のこと。
掛川市では昔から「かっぷ」と呼ばれ親しまれています。

今回は、そんな葛布の「目に見えない魅力」をお楽しみください。

 

美しい葛布製品と60年の職人技 小崎葛布工芸さん

 
 

まず私たちが訪れたのは、『小崎葛布工芸』さん。
春には「掛川桜」が咲くという川沿いに佇む工房は、葛布の“のれん”がお出迎えをしてくれます。


 
 

工房に入ると、そこには葛布製品がずらっと並んでいました。
どれもキラキラと光沢があるのが分かります。他にはないこの光沢こそ、「くず」の特徴のひとつ。


 

 

葛布は鎌倉時代には使われていたという記録が残っており、
江戸時代には参勤交代のお土産品として献上されていた高級品なんだそうですよ。

そんな葛布製品のピークは昭和30年。というのも、
葛の繊維を取り出して一本の糸にする工程があまりに大変なのです。(次の記事で紹介します)

その職人さんたちが減少していったことが原因で、葛布産業は衰退……。
かつては30~40軒あった葛布の工房も、今では2軒のみ。

 

小崎葛布工芸さんがつくる葛布カーテンの93%は、リーマンショック前まではアメリカへの輸出だったそうです。
しかし、残念ながら円高が影響して「今はアメリカでは売れない……」と顔を歪ますのは小崎葛布工芸の小崎さん。

「車メーカーなどの大企業と違って、家業として手仕事を生業とする私たちは景気の影響には太刀打ちができない」のだと教えてくれました。

 

とってもおしゃべりで明るい小崎さん。
冗談を混じえながら、葛布についてたっぷりお話ししてくれました。

まずは葛布を多くの人に「知ってもらう」ことが第一、だと言います。
手間暇かけた美しい葛布の魅力を伝えたい……!そんな想いを掻き立ててくれました。

 
 

続いて、二階にある作業場へ案内してもらいました。
そこには織り子歴60年のベテラン・しかさんが作業をされており、しばし見学。

 

黙々とこなす、その手つきはさすがベテランさん。
中に糸を入れる、船のような形をした “シャトル”を手際良く滑らせていきます。

葛布の特徴のひとつである“たま”と呼ばれる糸同士の結び目、
これが絡んでしまうことが度々あるそうなのですが、それをほどくのも超高速です。


 

 

葛の糸は湿らせた方が扱いやすいそうで、シャトルの中には少し湿った糸が入っています。
ただ、糸が乾いた時に縮んでしまうらしく、少しだけ大きめに織ります。
この加減というのは、長年の経験によるものだから驚きです。

しかさんの手際の良さを見ているだけだと、どうしても簡単そうに見えてしまいますが……。
材料である「葛」は植物なので、まったく同じものは存在しませんし、加えて気候なども考慮しているそう。

これらもすべて長年の「経験」によるもの。手仕事というものは本当に尊いなあと改めて実感しました。

 

職人技を体感 川出幸吉商店さん

 
 

次にお邪魔したのが、『川出幸吉商店』さん。


 

ほんわか優しい雰囲気が漂う店主の川出さんは、なんと「織り体験」をさせてくれました。

あらかじめ通された無数の経糸に、葛の糸が入ったシャトルを通していきます。
見たことある方も多いと思いますが、一回一回おさを手前に引いて糸を詰めるんです。
この力加減もまた難しく、力任せにガシガシ詰めていると、糸の使用量が莫大になってしまいます。

 

む、むずかしい……。

葛の糸が途中でプチン!と切れてしまったり、絡まってしまい通らなかったり。
何より、思うようにシャトルが滑らずなかなか進みません。

糸が引っ張られすぎないように、両脇を抑えながらおさを手前に引くと教わったのですが、それを実践する余裕すらありません。
葛布商品の端っこは、きれいに糸が円を描くように処理されているのですが、大きさを均等に揃えるのは相当難しいです。


 

……でも、そんな葛布織体験はついつい夢中になってしまいます。

無心になって織り進めていると、川出さんがおもむろに「袴」を取り出してきました。
それはなんと、「江戸時代の袴」!!

 

「えええ!?」と、一同騒然です。

博物館にあってもおかしくないもの。
高級品とされた葛布は、蹴鞠の袴としても使われていたそう。
川出さんが何食わぬ顔で“普通に”出してくださって、驚きも倍増です。笑

 
 

そんな歴史のある葛布ですが、小崎さんも仰っていた通り、衰退しつつあります。

川出さんは、葛布の糸をつくる職人さんが非常に減少していることについてお話ししてくれました。
高齢化もあり、作業の大変さにお仕事を依頼しても断られてしまうとか。
手間暇をかけているからこそ高い値が付く葛布製品、
材料を供給してくれる方への賃金を更に上げなければならず、道のりは相当厳しいと言います。


 

海外へ委託しようとも試みたそうなのですが、うまくいかず……。

「情けない……」と肩を落としながらお話してくれましたが、
「でも、なんとか頑張っていくつもりですよ」と、最後には素敵な笑顔を見せてくださいました。

 

目には見えない手仕事の魅力

 
 

以上、二件の葛布工房を訪ね取材をしてきました。
存分に葛布の魅力に触れさせてもらい、その独特な光沢は眺めれば眺めるほどハマってしまいますよ。
時代を超えて愛され続けた理由がわかります。

同時に、葛布産業のちょっと心が苦しくなるような現状にも触れてきました。

葛布の材料である糸の供給が減少していることや、工房が今では2軒のみということ、
葛布の最盛期から現在に至るまでどんな道筋を辿ってきたのか……。

長年葛布産業を支えてきた、優しく面白いお二人が丁寧に何でも教えてくださいました。


 

 
 

長年愛され続ける「手仕事」って、その製品としての美しさはもちろんですが、
それに関わるたくさんの人の「人柄」とか、「想い」とか、「愛情」とか、
目に見えないものを感じてより一層、人の心を動かすのではないかなあと思います。

たった一日でしたが、私はそんな葛布の“目に見えないもの”を感じてきました。現地に足を運んだ特権ですね。
私が感じた「葛布」の魅力を、皆さんに少しでもおすそ分けできたら嬉しいです。

さて、次の記事でもまた「葛布」に関わる素敵な方が登場しますよ。
お楽しみに!!

 

ニッポン手仕事図鑑 浅野有希

名前:浅野有希
職種:ふたりごと文庫 編集長
出身:埼玉県

地域活性化を志す産業能率大学4年生。ニッポン手仕事図鑑にて毎日勉強中!旅行と美味しいものを食べるのが好き。
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