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2018年07月10日
憎まれっ子の「葛」が、美しい「葛布」へと生まれ変わるまで
植物の「葛(くず)」の繊維からできる静岡県掛川市の伝統工芸、「葛布(くずふ)」を取材させていただきました。
「葛の繊維からできるって言っても、結局どうやってできるのだろう!? 」
そんな疑問を抱きませんか?
葛布ができるまでにかかる手間暇は、私の想像を遥かに超えるものでした。
葛布の材料「葛」は憎まれっ子!?
その前に、そもそも「葛」ってご存知ですか?
葛は「憎まれっ子」「グリーンモンスター」などと呼ばれるほど、どこにでも自生する植物。
こんな植物、見たことあるのではないでしょうか??
よく電車の通る脇や歩道の傍らなんかに、なにげな~く生えているのが「葛」なんです。
私も意識したことがなかったけれど、掛川から帰ってきてからというもの、ついつい葛を探してしまいます。
憎まれっ子の「葛」ですが、実は万能な植物。
布「葛布」の他にも、根っこは漢方の「葛根湯」や、葛粉を溶き固めたものが「くずきり」、
葉っぱは家畜の飼料や、天ぷらにして美味しくいただけますし、花はイソフラボンが豊富でダイエット効果があるそうですよ。
それでも、生えすぎることから「憎まれっ子」と呼ばれてしまう葛……かわいそう……(笑)
そんな葛は、美しい葛布へと生まれ変わるまでに大変な苦労があります。
まず、真っ直ぐに伸びたツルを収穫します。葛布には“素直に真っ直ぐ”伸びたツルが良いそうです。人間と一緒ですね!
↑これだとツルがくねくね巻き付いてしまっています。
収穫したツルを輪っか状にして、大きな釜で煮ます。
この輪っかは、一度にたくさん煮ることができるように様々な大きさで作るのだそうですよ。
また、この煮る作業もすごく神経を使うそうで、気候などによって異なる時間などは長年の経験を頼りに調節します。
煮たツルを流水につけて水を吸わして、その後、ススキをかぶせて二晩寝かせて発酵。これは、植物の呼吸によるものだそうです。
それが終わると一晩ぬかに漬けて、また水洗いをした後に、天日干しをします。
そして、前の記事でご紹介した「小崎葛布工芸」さんや「こたけや川出幸吉商店」さんから、作る商品に応じた糸の“太さ”がオーダーされます。
それに合わせて、天日干しした繊維を手で割いていくんです。こうして、ようやく一本の糸になります。
こうしてできた糸は、もちろんそのまま織られることもあれば、藍や“よもぎ”などで染めて使われることもあるそうです。どれもすごく綺麗です。
掛川の“仙人”
こんなに手間がかかり重労働ですから、葛の繊維から糸を作る職人さんたちはどんどん減少しているそうです。
訪ねたのはその中の一人、松浦さんです。
最初に訪ねた小崎さんから、「掛川の“仙人”なんだよ!」と紹介されていました。
……仙人!?
ワクワクしながら訪ねると、畑仕事をしながら松浦さんがご登場。
“仙人”のイメージとはかけ離れた、ニコニコ笑顔のほんわかした雰囲気を持つ方でした。
葛を摂るところを見せていただきたいとお願いすると、いくつかある“いつもの場所”へ案内していただけました。
片手にカマを持って、手際よく葛のツルをさばく松浦さん。季節的にまだ早く、ツルはまだ小さいようでした。
同い年だという松浦さんと、同行してくださった一般社団法人「中東遠タスクフォースセンター」の榛村さんが、
地面の跡を見て「これはシカやねえ」なんて会話をしていました。
お二人にとってはいつも通りの会話だと思うのですが、そんな会話を盗み聞きしては「え!?シカ!?シカがいるの!?」なんて、いちいち心躍らせていました(笑)
訪問中、常にニコニコしてくれている松浦さん。
後日撮影予定の葛布PR映像の打ち合わせで、どちらで撮影しようかご相談すると、
両手を広げながら「どっちでもいいよ~~」と答えてくれました。それがもう、とってもキュートでした。
掛川の豊かな自然と美味しいお茶が、この温厚な性格を生んだのかもしれませんね。
掛川の“仙人”と呼ばれる秘密
さて、そんなキュートすぎる松浦さんが、どうして「掛川の仙人」と呼ばれているのかは、
自宅まで案内していただいて納得することになります。
葛の収穫を見せていただいた場所から車でしばらく山道を走り、ある場所で停車。
車を降りてすこし歩くと、まるでジブリのような世界が広がっていました。
この地区に住んでいる方は本当に少なくなっているようで、
ジブリのような坂を少し上った先に、松浦さんのご自宅があります。
掛川の中心街からは少し離れているのですが、松浦さんは携帯を持っていないのだそう。
今回も、掛川市の方が松浦さん宅を訪ねてアポイントをとってくださいました。
また、野菜をご自宅で栽培していて、家の周りにはいたるところにお野菜がありました!
中心街から離れたところで、葛布の材料の供給をはじめ、自然と共に昔ながらの暮らしをしている……。
「掛川の仙人」と呼ばれる理由は、ここにあったんですね。
自然に寄り添う暮らしと、葛布
「葛布」ができるまで、かなりの手間暇がかかることをお分かりいただけたでしょうか。
前回の記事でもお伝えしたように、そんな葛布の材料を供給する人はどんどん減少しており、葛布産業は衰退しつつあります……。
松浦さんは、貴重な材料を供給している方の一人。
常にニコニコしているキュートなキャラクターに惹きつけられました。
「ナスさん」のように、自然のものすべてに「さん」を付けて呼ぶんです。
丁寧で、可愛くって、女子大生顔負けです。
自然というものと寄り添って暮らしている松浦さんだからこそ、自然への感謝やリスペクトを感じるなあと思いました。
葛布に関わる方々に出会いお話を聞いてきましたが、皆さん本当に魅力的でした。
そんな方々に触れ合ってから見る「葛布」は、なんだかより一層輝いて見えます。
東京から車で約三時間、静岡県の掛川市にはこんなにも素敵な伝統工芸「葛布」と、
それに関わる魅力的な方々がいらっしゃいました。
ぜひぜひ、そんな掛川市を訪ねてみてはいかがでしょう?
掛川市の皆さん、ありがとうございました!
こちらもご覧ください!
名前:浅野有希
職種:ふたりごと文庫 編集長
出身:埼玉県地域活性化を志す産業能率大学4年生。ニッポン手仕事図鑑にて毎日勉強中!旅行と美味しいものを食べるのが好き。
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