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2022年04月08日

信州の伝統工芸品である両角さんの鋸を世界に広めたい

株式会社ニッポン手仕事図鑑は、長野の伝統工芸である 「信州鋸」を体験、伝統と匠の技を体感し、 職人の魂を肌で感じ、情報発信を目的とした 1泊2日のインターンシップを開催しました。
今回は信州鋸インターンシップの参加者からそれぞれの目線で、参加したからこそ見えてきた信州鋸の魅力を記事にしていただきました

見つけてくださった皆様、こんにちは。
この度インターンシップ生として参加いたしました、林杏花音と申します。
私は中学校から女子美術大学の附属中学校に通い、
大学を含めると美術を学び今年で10年目になります。
大学では木材で作品を制作することが大好きで、制作する際に使う道具に興味がありました。
また、私の将来やりたい情報発信とインターンシップの内容が一致していた為、参加いたしました。

私はインターンシップにて信州鋸を初めて知り、
〝鋸の職人さん〟と職業として見ていた人が〝両角さん〟に変化しました。
この様な状況の中あたたかく受け入れて下さり、
職人としての誇りと情熱を持った両角さんと信州鋸を知っていただけたら幸いです。

工房体験の様子 仕上げ目立て
(工房体験の様子 仕上げ目立て)

―鋸の歴史―

信州鋸は210年の歴史を持つ茅野の誇りと言われています。
1805年鋸鍛治である藤井甚九郎が、
高島藩の招きにより茅野市の諏訪に移住したことをきっかけに鋸の製造を始めたと言われています。
諏訪の風土は湿気が少ないことから、
焼き入れをする際に湿度を嫌う鋼と相性が良く伝統技術によって生み出された鋸は、
耐久性や切れ味の良さから発展していきました。
明治13年には約4200人の職人さんが全国で10%鋸を生産していましたが、
現在はお二人になってしまいました。
そのうちのお一人が鋸一筋55年の〝両角金福(もろずみ かねひろ)〟さんです。

仕上げ目立ての作業
(仕上げ目立ての作業)

鋸を作るには焼き入れや熱処理、9段階の作業工程があります。その中でも私は〝仕上げ歪み抜き〟と〝仕上げ目立て〟の作業工程にとても感動したのでその2つを中心に書き残したいと思います。

―薄暗い工房の秘密―

両角さんの工房は窓から差し込む光が無ければ少し薄暗く、不思議と落ち着く空間でした。
光にもこだわりがあり、北側の太陽光が差し込む位置を計算して工房を作られたそうです。
両角さんの目で見て一枚一枚鋼を均一にする作業工程は、
昔から北側の太陽光を使い、夜には太陽光に似せた蛍光灯を使用し、
変わらずこの方法で作15ているのだとか。

薄暗い工房

機械も導入されていましたが、全て人の手や目で見て動かすアナログ式の機械でした。
機械の力で効率化を図りながら鋼を磨く工程も、
両角さんの55年の経験が無ければそのタイミングや回数など厚みなどが均一では無い鋼には通用しません。

伽石での研磨 磨きの作業工程
(伽石での研磨 磨きの作業工程)

―職人が作る意味―

私は一番気になっていた職人さんが作る意味をお聞きしました。
一般的な鋸では、木を切った際に刃の先端が熱を持ち、
のびることで刃先だけが曲がることがあると言います。
刃の先端がのびることで中心部が縮むからです。
これを繰り返すことで綺麗に切れなくなり、何年も長持ちしないと言います。
しかし、両角さんの鋸は、木材を切った際に刃先だけがのびるのでは無く、
鋸全体がのびる様に均一に鋼を叩いています〟
これこそが、〝仕上げ歪み抜き〟の作業工程です。
仕上げ歪み抜きを行うことで、均一に鋼がのび、
刃先だけが曲がらないことで切れ味が良いまま何年も使用できます。

仕上げ歪み抜き
(仕上げ歪み抜き)

また、〝仕上げ目立て〟では鋸の歯を一本一本手作業で研いでいるため木材の切り口が美しいことは勿論、
切る際に一番初めに木材に触れる刃の先端も職人技で研がれており、
とても軽い切り心地です。
実際に木材を切らせて頂いた時に、
あまりにも普段使用している鋸とは比べ物にならない程軽く、
切れ味が良く美しい断面だったことに驚きとても印象深いです。
〝使う人がどれだけ切り心地が良く長く使用できるのか〟
これが、この両角さんの使っている人への心優しい気遣いが、
私が感じた職人が作る意味だと思います。

仕上げ目立ての作業
(仕上げ目立ての作業)

両角さんは素材にとても拘っており、島根の安来鋼を使用しています。
しかしその材料を鋸の厚みにしている工場が現在はありません。
両角さんに今後は違う材料で作られるのか伺ったところ、
「材料は残り100枚程度、使い切り、無くなったら引退する」
と自分は拘ってここまでやってきたから、頑固なのだと仰っていましたが、
私にはそれが職人としてのプライドなのだと感じました。
現在、後継者は居らず材料を使い切って、両角さんが引退したと考え、
もう1人の職人さんも引退してしまったらそこで茅野の誇る信州鋸の歴史は途絶えてしまいます。
そして、鋸は替え刃が主流となっています。
それは修理をできる職人が少なくなっていることも
信州鋸が途絶えてしまう原因のひとつです。
しかし両角さんは信州鋸以外の修理も行い、
鋼が均一になるように叩いてから返すと言います。
この心優しい気遣いや職人技術が未来に残らないかもしれないのが現状です。

島根の安来鋼
(島根の安来鋼)

―鋸への想い-

私は今回のインターンシップで道具の見方が変わりました。
工房体験中もたくさんの質問に丁寧に答えてくださり、
両角さんのお人柄も含めて私は信州鋸が大好きになりました。
当たり前に使っていた道具には、作り手である職人さんの人生が詰まっているのだと感じました。
一本一本に込められた職人技術と熱意が途絶えることを考えると、
1人でも多くの人に伝えていかねばいけないと強く思いました。
何かを作るためには道具が必要であり、
その道具を作るために職人さんがいてその連鎖なのだと感じました。
良い物には理由があり、そこには職人の熟年の技や思い、
そして使う人への心優しい気遣いがあるのだと知りました。
中々、こういった機会が無ければ知るきっかけがありませんが、
今回〝両角さん〟という職人さんと〝信州鋸〟を少しでも知って頂けたら幸いです。

女子美術大学3年生 林杏花音

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