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2019年07月02日
作り手と若者を好きで繋げる|松田沙希
日本の伝統工芸品と聞いて、皆さんは何を連想するでしょうか。
色鮮やかで美しい友禅染めのお着物、煌びやかな糸で丁寧に織られた西陣織の帯。
そういうものが思い浮かびます。
今回はそんな、日本の着物文化の本場京都で新風を吹かせる、松田沙希さんにお話を伺いました。
松田さんは、2018年6月に株式会社APPRE-ARTを設立し、伝統工芸の職人の方と、現代の若い女性が取り入れやすい商品の提案とデザインを行っています。
また、“ものづくり手と若者を好きで繋げる空間”をコンセプトとしたカフェSenbonLabの運営をしながら、ものづくりの現場に学生が触れ合い学びを得るプロジェクトの企画とプロデュースをしています。
松田さん:「もし日本の伝統工芸の文化が無くなったら、きっとみんな寂しい思いをすると思うんです。
私のこの活動の先に明るい未来があると確信しています。」
そう語る松田さん。
今回はそんな彼女の学生時代に遡り、今のお仕事にたどり着くまでの心境の変化と過程について教えていただきました。
―松田さんは学生時代に複数の留学経験があるとのことですが、きっかけはなんだったのですか?
松田さん:私は父の仕事の関係で幼いころに海外に住んでいました。
そのせいか、帰国後日本人のコミュニティになじむことが困難で、小学校中学校と、人間関係に大変悩んでいました。
そして高校に上がるときにアメリカに留学することを決意しました。
当時医療系の進路を目指していたため、グローバルに活躍できる英語力身につけるためでもありましたが、人間関係もアメリカに行けば何か変わるかもしれないと、期待を持っていました。
しかし、アメリカで私を待っていたのは、アジア人である私に対する偏見と差別でした。
それから日本人であることがコンプレックスとなった時期もありました。
―それは辛い経験ですね。
そこからなぜ、松田さんは日本の伝統工芸に興味を持ったのでしょうか。
松田さん:実はそこで、私は日本の文化に救われたんです。
現地の学生の中には、アニメや食文化などの日本の文化を好む人も多く、日本人だというと興味を持って話しかけてくれる子が沢山いました。
その経験から日本の文化の偉大さに気づきました。
日本人であることが嫌でアメリカに留学したはずが、逆に日本人であることの誇りを知って、日本に帰ったというわけです。
―ふむふむ
それで伝統工芸に携わりたいと思ったのですね。
松田さん:いえ。実は今のお仕事にたどり着くのは、それからもっと後の話なんです。
高校卒業後、松田さんは立命館大学に入学し、英語の強化プログラムを履修しました。
そこで出会ったカンボジアの先生の影響で途上国の開発経済と人の幸せの結びつきに興味を持ち、在学中にタイに留学しました。
現地で、開発が必ずしも直接的に人の幸せに関与するとは限らないと気付き、考えが大きく変わったそうです。
松田さん:タイから帰って、“私にできることは?”っていうことを何度も考えていました。
そして、世界とか大きいところでなく、自分の周りの人の日常の小さな幸せを作りたいという結論にいたりました。
この頃から起業は考えていましたが、何をしようか未定の状態でした。
“自分の好きなファッション+人に幸せを届けられるもの”というところで、ブライダルなんかも真剣に考えてましたね。
そんな中で、京都の伝統工芸とフランスのオートクチュールの刺繡のコラボ企画の番組をみて、これだと思いました。
それが今のお仕事にたどり着いた最終的なきっかけでした。
伝統工芸の業界では、圧倒的に消費者と生産者の仲介役が足りていません。
松田さんは、だからこそ自分が使い手と作り手の間に立って使い手にストーリーを伝えながら、使い手が求めるものを作り手と考えていきたいと言います。
伝統工芸品と聞くとどうしても高価で非日常的なものに感じる人も多いでしょう。
しかし松田さんがプロデュースした品物は工芸品の良さも残しつつ、普段身に着けても全く違和感がありません。
職人の思いと暖かみがこもった伝統工芸品を、いつものコーディネートにプラスしてまちを歩く。
それだけでなんだかわくわくしてきそうです。
松田さん:確かに今までも伝統地場産業を現代の生活に合わせようという商品開発はあったけど、少しなんだか野暮ったい、ダサいと言われてしまうことが多く、若い女の子が気軽に普段使いできるものってなかなか無かったんですよね。
素材やプロセスの工夫や、際に使用してもらいたい世代の子達にアイデアを出してもらうだけで、ファッショナブルで現代の若い世代にも受け入れられる新しいものが生み出せると思うんです。
ファッションのトレンドと若い女性の好みに合った西陣織の全く新しいブランドで、私だから生み出せる新しい風を吹かせていきたいです。
伝統工芸の明るい未来を描く松田さんの表情からは、これからの課題の解決に燃える闘志と矜持が感じられました。