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2018年06月12日

【連載】かよいみち ―2.長岡の空

そろそろ、夏がやってくる。

テレビでは、東京都の通勤ラッシュについて触れていた。
今日の電車の乗車率は150%らしい、と。

 

僕が住む新潟県では、車通勤をする人が多いため、
満員電車に遭遇する確率は都心部に比べれば遥かに低い。

何度か仕事で東京に行った際、その混雑を経験したことがあるが、
僕にはなかなか耐え難いものがあったし、
そこで働かれている方々には敬意を表したかった。

その時を思い出しながら、ふと考える。
乗車率でこれだけ大変なのだから、
もし仮に人口がそれほど増加してしまったら、
一体どうなるのだろう、と。

そして、また思い出す。
僕が住んでいたところには、
150%どころではなく、
人口がそれ以上になる2日間があったな、と。

それは、毎年8月2日、3日。
「長岡花火」の日である。

 

 
 

長岡市の人口が約27万人であるのに対し、
2017年度の来場者数は2日間で100万人以上。
人口の約3倍である。

打ち上げ幅2km以上にも及ぶ「フェニックス」や、
直径650mもの大輪の花を咲かせる「正三尺玉」は、
観る者の心を圧倒する。

これほどまでに多くの方々が訪れるのは、
長岡花火が日本三大花火に数えられているからだけではないだろう。

 

 
 

商業的な理由だけを考えれば、
花火大会の日程は土日や祝日に設定した方が正しいのかもしれない。
しかし長岡花火は毎年必ず、8月2日と3日に打ち上げられる。

その理由は、かつての第二次世界大戦時、
昭和20年8月1日に長岡で空襲があったことに由来する。
戦没者の慰霊と復興を祈念し、
毎年その日には長岡まつりが行われ、
そして2日と3日に花火が打ち上げられるのだ。

 

 
 

僕はこの長岡市で、高校時代の3年間を過ごした。
実家から高校までの距離は毎日通うには些か遠すぎたので、
自転車通学圏内にあった祖母の家にお世話になっていた。

街の隅々には、過去の記憶がこびりついているような感覚があるし、
そしてしばらくの間働いていたこともあるという現在の記憶とが同居して、
ここを訪れるたびに不思議な緊張感にも包まれる。

 

 
 

この街の中での僕の役割は、
ある時は「居候」であり、
またある時は「高校生」であり、
そしてある時は「デザイナー」であった。

僕自身の能力、知識は、成長と退化とを繰り返しながら、
少しずつ前に進んでいると思いたいが、
周囲から期待されることや環境等によって、
時折自分を偽り、それぞれの立場を比較的不器用に演じ続けていた。

サードプレイスという、
家や学校、職場以外の心地よい場所という概念があるが、
それは僕にとってカフェ等ではなく、近所の神社であった。

 

 
 

町名にちなんで「蔵王さま」と呼ばれている金峯神社は
かつて地区の総鎮守だったこともあるらしく、
美しい木漏れ日が降り注ぐベンチに座ると
時間の流れをあっという間に感じてしまう。
日頃の役割から開放され、何者でもない自分になれる空間であった。

 

 
 

幾度となく長岡市には訪れてはいるのだが、
高校時代と比べ、少しずつ街の色が変わってきたようにも思う。

 

 
 

発端となったのは、
恐らく長岡市役所としての機能を持つ、「アオーレ長岡」の存在だ。
旧市役所移転に伴って建造されたこの建物の設計は、
新国立競技場も手がけた隈研吾氏によるものである。

 

 
 

窓口に手続きをしに来た人だけではなく、
学生から老夫婦まで、多くの人々が心のままに交差する。
ここも誰かにとってのサードプレイスとなっているのかもしれない。

そして昨年長岡駅前に、
「コモンリビング」というスペースが開設された。
街のリビングとして開かれたその場所は、
誰もが集い、寛げる貴重な空間となっている。

 

 
 

役割という肩書に押しつぶされない前に必要なのは、
きっと、空っぽになれる時間を過ごすことだ。

 

 
 

また、この街では花火が上がる。

同じ空を見上げ、その時ばかりは皆が等しく観客となる。
こうして長岡市は、1年を繰り返しながら、
ゆっくりと時計の針を進めていくのだ。

そろそろ今年も、暑い夏がやってくる。

===

前回の記事から半年以上もお時間をいただいてしまいました。

お久しぶりです。
改めて、小黒恵太朗と申します。

久しぶりに高校の通学路とその周辺を歩き直し、
感じたことを記事にしてみました。

今回は「役割」という言葉が多く出てきましたが、
それを担うのはもちろん悪いことではありませんし、
全うするのは素晴らしいことだと思います。

寺山修司の言葉の中に、こんなものがありました。

「劇場があって劇が演じられるのではない。
劇が演じられると、劇場になるのである。」

僕たちは、常に何かの役割によって、
人生という劇を演じているのかもしれません。
そして、この長岡市には面白い「劇場」が沢山あります。

ぜひ一度、足を運んでみてください。

 

 

名前:小黒 恵太朗
職種:会社員
出身:新潟県

新潟移住計画や、写真ユニット「てんてこまい」としても活動中。
丁寧な暮らしを心がけています。
Facebookアカウント:https://www.facebook.com/keitaro.oguro
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ふたりごと文庫編集長 浅野有希

ふたりごと文庫編集長 浅野 有希
産業能率大学4年生。
大学2年生の時、ニッポン手仕事図鑑のインターン生として参加し、
2周年感謝イベントや期間限定ショップのスタッフとして活動する。
現在は「日本の地方の魅力を伝える仕事」に就くため、日々猛勉強中!

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